67.勝手に動くのだけは無しだ【Side:長谷川 将継】

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*** 「ホントは許可出したくねぇんだけどなぁー」 「お前は私の主治医かよ……」  吐息交じりの相良(さがら)からのセリフに、私は苦笑せずにはいられない。  先程、この病院へ運ばれてきて二度目の頭部CT画像を撮ったのだが、その結果を見ながら医者が言ったのだ。 「脳内の血はまだ残っていますが、増えている気配はありませんし、長谷川(はせがわ)さんご自身の言動に不自然なところもありません。とりあえず自宅療養に切り替えましょう」  と――。  相良はこれが不満らしく、先生に「いっそのこと手術で脳内の血ぃ抜いてからしばらく入院させてもらって……ちぃーと様子見したのちに退院とかじゃダメなんですかね?」と食い下がっていた。 (いや、勝手に手術を推奨するようなことを言うなよ)  噛みつかんばかりの勢いで先生に詰め寄る相良を見ながらそう思っていたら、医者は至極落ち着いた声音で「相良さん、症状がないのに脳をいじるのはハイリスクです。こういう場合は脳浮腫を緩和する漢方薬を続けながら様子を見るのが一番いい方法なんです。ご理解ください」と説明をしてくれてホッとする。  実際入院してからずっと、私は先生から処方された脳浮腫の改善に有効と言われている五苓散(ごれいさん)という漢方薬を朝昼晩と服用して大人しくしている以外、これと言った治療はしていない。 「なぁ相良よ。服薬だけなら入院していなくたって出来るだろ」  私がそう言って笑ったら、相良がムッとした顔をした。
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