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「深月に隠し事して心配させたくないから言うけど、私は明日、相良と深月の病院へ出掛けてくるつもりだ。けど、心配しなくていい。――ちゅーても、深月のことだから心配しちまうと思うけど……私に任せて待っててくれるか?」
「でもっ、まさ……んっ」
抗議の声は有無を言わさず唇で封じられてしまった。
それそのものが愛だと言わんばかりの肉厚な舌は、想いを注ぎ込んでくるように口腔を優しく這う。僕の懸念をほぐそうとする甘いキスだ。
すぐに頬が内側から火照りだす。昂る身体は熱を孕み、けれどそれよりも将継さんの舌の方が熱くて、溺れ、堕ちる。
彼の唇には媚薬が含まれているように思う。僕はいつだってふわふわと浮遊し、初めての口接けを与えてくれた彼に、その回数を重ねるほど恋情が募っていくのだ。
彼は唇を離すと、僕の頬をさらりと撫でて「約束してくれるか? 信じて待ってくれるって」と真摯に瞳を覗き込んできた。まっすぐ過ぎて受け止めきれないほどに。
「危ないことは、絶対にしませんか……?」
「約束する」
(本当だろうか……)
何だか今の将継さんからは並々ならない決意――否、押し隠している激情のようなものを感じて心配になってしまう。
それに、僕の病院へ行くと言っているけれど、相良さんは僕の証言が必要だと言っていなかっただろうか……?
「本当なら、今すぐここで深月の全部もらっちまいたい。でも、咲江が見てる。それに――」
そこで将継さんは声を低めて、僕の耳元でそっと囁いた。
「今ご褒美もらっちまったら、これから先のこと……全部終わったら深月が待ってんだって支えがなくなっちまう。――弱いな、私も」
「ま、将継さんは強いです! いつも、僕を守ってくれてます。だから、僕も将継さんを守りたい……です」
「深月がそばにいてくれてるだけで守られてる。だから、深月にはいつだって私のそばで笑ってて欲しい。これも約束してくれるか?」
いつになく切実な色を滲ませる将継さんが何だか心許なくて、僕はにこっと笑ってみせると、日頃彼がそうしてくれるように将継さんの頭を撫でていた。
「約束します。その代わり……将継さんも、いつも笑っててください」
「約束する」
ニッと笑った将継さんを見つめながら、僕は心の中、密やかな決意をした。
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