68.僕にしか出来ないこと【Side:十六夜 深月】

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「あ、あの……ちょっと買い物、してもいいですか? お土産……とか」 「かしこまりました。売店までお供します」  一階の売店に着くと、僕は男性に店の前で待ってもらうようお願いする。急いで店内に入り、キャップとシャツ(アロハだ……)を購入して、レジでタグをすべて切ってもらうと、すぐに店を後にした。  僕を見つけた男性が近付いてきたので、「あの、御手洗に行っても、いいですか?」と窺うと、特に不審がられることもなく誘導されて。  個室に入った僕は、買ったばかりのキャップを目深(まぶか)に被り、シャツを羽織って変装を完了させる。  ちらりとトイレの入口から外を覗き見ると、護衛の男性はぴたりと壁に沿うように立っていたから――。  僕はそそくさと顔を伏せながら逆方向へ足早に歩き出すと、ホテルを出てタクシープールで一台の車に乗り込んだ。  キャップとシャツを脱ぐと、買い物袋に突っ込み、自分が着ていたマウンテンパーカーを羽織り直す。 「常磐(ときわ)病院まで」  運転手に僕の病院名を告げると、すぐにタクシーが発進するのでホッと一息ついた。 (将継(まさつぐ)さん……相良(さがら)さん……勝手に動いてごめんなさい。でも僕は、少しでも二人の役に立ちたいんだ)
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