69.嘘つき【長谷川 将継】

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69.嘘つき【長谷川 将継】

「じゃあ深月(みづき)、行ってくるから。絶対にここで大人しく待ってるんだぞ?」  私の言葉に不安そうに瞳を揺らせた深月が、「気を付けて、くださいね?」と送り出してくれる。  私はそんな可愛い深月に行って来ますのキスをして、何でもない素振りで部屋を出た。  深月はあの心配性の相良(さがら)が私のことを部屋まで迎えに来ないこと、もっといえばあれだけ私の退院を渋りまくっていたアイツが、退院の翌日に私を連れ出すようなことをするはずがないということに思い至らなかったらしい。  実際、退院してすぐの夜、ホテルのロビーから相良へ電話して「すぐにでも久留米(くるめ)のところへ連れていけ」と打診したら『バカか』と却下されたのだ。  そのまま電話越し、大きく吐息を落とされながら、『大体俺はまだお前が退院してること自体に納得してねぇーんだからな?』と、主治医が聞いたら『あんなに説明したのにまだそんなことを』と失笑されそうな過保護ぶりを発揮して。  そんな相良から、『鉄砲玉体質の深月ちゃんのことはもちろんだが、長谷川(はせがわ)。お前のこともうちの組の(もん)によぉーく言って聞かせとくから……簡単に抜け出せると思うなよ?』と釘を刺されてしまった。  ホント、泣く子も黙る葛西組(かさいぐみ)の若頭とは思えない言動に、私は我知らず吐息を落としたのだ。  電話だったから確認出来なかったが、きっと相良のそばで千崎(せんざき)さんだって呆れていただろう。  ――あなたは長谷川さんの奥さんですか!? ってな。
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