69.嘘つき【長谷川 将継】

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 ちなみにそのやり取りのことは当然深月(みづき)には言っていない。  だけどそんな風になることぐらい、ちょっと考えればきっと、深月にだって分かったはずだ。だから深月が私の嘘にまんまと騙されてくれたときには正直拍子抜けしたのだ。  てっきりもっと疑われると思っていたからな。  だが、それでいい。  私は深月にだけは危険な思いも、イヤな思いもさせたくないのだから。  とりあえずは、久留米(くるめ)が私に怪我を負わせて深月を(さら)ったことを立証出来ればいいと思っている。  あわよくば久留米のヤローを焚きつけて、監視カメラや衆人環視のもと、もっともっとボロを出させられたらしめたもの。  こちらが深月を取り戻して間があかないうちに仕掛ける方が、久留米も心穏やかじゃないだろうし、ヤツの心情を逆撫でしやすいはずだ。鉄は熱いうちに打てというが、そんな感じ。  本来なら深月が無事アイツの元から逃げおおせた翌日にでも敢行出来たらベストだったんだが、不覚にも私が身動き取れない状態で無理だった。  入院中にも、日が経てば経つほどヤツが冷静になりそうで落ち着かないのだと相良(さがら)には話したんだが、『気持ちは分かるしお前の言うことも一理あるとは思うが……。自棄(やけ)になった久留米から頭を殴られたらどうすんだよ』と至極まともな返しをされてしまった。  だからこそ退院直後、今度こそと思って相良に久留米のところへ連れていけと言ったのだが、〝またその話か〟的に『バカか』と吐き捨てられ、即刻却下されたのだ。 (私が完治するのなんて待ってたらいつになるか分からないだろ!)  あのとき、咄嗟に浮かんだそんな不平不満をグッと飲み込んだのは、許可なんてなくても勝手に動いてやればいいと思ったからだ。
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