69.嘘つき【長谷川 将継】

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 相良(さがら)は頼りになるし機動力もある男だが、当事者は私と深月(みづき)だ。どう動くべきかの権限くらいは握らせて欲しい。  思い込むと変に危なっかしいところのある深月に、もし私がそんなことを考えているだなんて知られたらきっと、『僕も付いて行きます』とごねたことだろう。  逆上した久留米(くるめ)が何をしでかすか分からない場に可愛い深月を連れて行くなんて絶対に無理だ。  私を信じて留守番をしてくれると約束してくれた深月を(あざむ)くみたいで少し気が引けるが、今だけは深月のため、彼に嘘を吐くことを許して欲しい。 (さて、深月はクリアしたが、問題は……)  エレベーターホール付近にいる相良の配下たちだ。  彼らの保護対象は深月と私。つまりは私も相良の了承なく下手に動けば、彼らの妨害を受けると言うことに他ならない。  さっき、フロントに用があるふりをしてチェックしてみたけれどザッと見積もって警護の人間は三人。  さすがにホテル内だ。如何にも極道といった雰囲気は漂わせてはいなかった。それこそ一見商談中のサラリーマンにしか見えない風を装っていた彼らだが、葛西組(かさいぐみ)の人間がいるはずだというフィルター越しに見れば、そこはかとない渡世人(とせいにん)感がぬぐい切れていないのが分かった。  何ていうか、目の奥に宿した光が違うのだ。別に睨みを利かせまくっているとかそういうことではない。顔は笑っていても目の奥は笑っていない剣呑(けんのん)さを帯びているとでも言えばいいだろうか。  これと言った計画があるわけじゃないが、とりあえずホテル(ここ)から出られさえすればあとは何とでもなるだろう。
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