70.決別と予兆【Side:十六夜 深月】

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 院長の言葉にすっかり怯んで黙り込んでしまった先生に、相良(さがら)さんは尚も畳み掛ける。 「この男は十六夜(いざよい)くんを自分のモノにしようと様々な罪を犯しました。脅迫……暴行……拉致監禁。――脅迫については十六夜くんが証言してくれたはずですよね? そして長谷川(はせがわ)はこの男に暴行されています。そのまま十六夜くんを連れ去っていく様子が家の周辺カメラに映っていました。バッチリ証拠になるかと。長谷川は後頭部を強打され脳内出血……十六夜くんは監禁され薬漬けになって戻ってきました。薬物の持ち出しも違法なのでは? それから――」  相良さんから明かされる事実を院長は信じられないと言った様子で聞いていたけれど、「――それから?」と、続きを促した。 「十六夜くんのアパートへの不法侵入・住居荒らしもしています。壁に血文字で十六夜くんへのメッセージが書かれていたんですが、久留米先生の血液型と一致していました。他にも、盗撮画像が送られてきた際、十六夜くんのお母さんの血痕がついたマイナンバーカードが同封されていまして……十六夜くんのお母さんへの傷害との関連性も調べているところです」  そこまで一気に喋った相良さんは、ふぅとひとつ吐息を落として院長をじっと見つめた。 「とりあえず……こんな私利私欲に(まみ)れた男に心理士を続けさせるのはどうなんでしょう? 長谷川を……そして何より大切な患者の十六夜くんの心を傷付けたのは間違いないと思いますけど?」  相良さんの言葉に、院長はしばし思案したのち、鋭い視線を先生に向けて静かに口を開き始めた。 「久留米(くるめ)先生……心理士と患者の間に個人的な感情を持つことは看過出来ません。その上で犯罪行為まで行ったのであれば、院を束ねる者として、このことは心理士の倫理委員会にかけさせてもらいます。最悪、除名も視野に入れてください」 「なっ! 院長! 私は何も……! すべてこの男が――長谷川(はせがわ)が悪いんです! 懲りない男だ!」  叫んだ先生がテーブルの上に置いてあったグラスを思い切り僕たちに投げつけてきて、将継(まさつぐ)さんが僕を(かば)うように抱きしめたら、彼の頭部に思い切りぶつかって床に割れ散った。 「将継さん!」 「長谷川!?」
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