02.出会い【Side:長谷川 将継】

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 週に三日は顔を出すこの店は、料亭みたいに洒落た料理は出てこない代わりに、家庭料理に近いラインナップが揃っている。  それが、もうじき四十路を迎えようかというガタついた身体には、何とも有難いのだ。  妻の咲江(さきえ)が生きていた頃は、彼女の作ってくれる手料理がたまらなく好きだった。  私自身もそれなりに料理を作るのは好きな方だったから、休日なんかになると二人で台所に並んで立って、数品ずつおかずを作りあったものだ。 (自分のために作るのは、何だか張り合いがなくて好きじゃないんだよね)  過去に思いを馳せたついで。  そんなことを思ってほぅっとひとつ溜め息を落としたところで、「とりあえず刺身とカブのそぼろ煮ね」と、目の前に注文した品が出てくる。  カブのそぼろ煮が入った器からはホコホコとうまそうな湯気がくゆっていた。 「酒の方はいま(かん)をつけているからちょっと待ってね」 「ああ、ゆっくりで構わないよ」  手を合わせていただきますをしてから、箸に手を伸ばして――。  ふと横を見た私は、自分が座るカウンター席から数席離れた端っこに、一人縮こまるようにして座る青年がいることに気がついた。
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