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「ったく、深月は本当に心配性なんだから。私と相良に任せろって言ったろ?」
「ごめんなさい……将継さん。僕も、力になりたかったんです……」
ホテルに戻ってきた僕たちは将継さんの傷の手当をして、束の間緊張感から解放されていた。ベッドの上、将継さんがまた後ろから僕を抱きしめてくれている。しかし、紫煙を燻らせている相良さんの表情は穏やかではない。
「本当にお前ら無茶しすぎなんだよ。長谷川は突然押しかけてきて駄々こねるし、深月ちゃんは飛び出しちまってるし……。――まぁ、深月ちゃん。よく頑張ったな」
「先生は……これからどうなりますか?」
「とりあえず、長谷川への通報は取り下げられるだろうよ。院長が話のわかる奴で良かった。石矢を使うまでもなかったな。あ、でも深月ちゃんが石矢を許せねぇなら然るべき措置をとるぞ? 奴が長谷川建設に籍がねぇのは深月ちゃんも薄々分かってると思うが、今は俺の方のしのぎを手伝わせてる。その仕事を奪うことも出来るし、深月ちゃんへしたことの落とし前を法的につけさせることも可能だ」
その言葉に、僕は慌てて「石矢さんは、僕を助けてくれました! 恨んだりしてません!」とまくしたてると、「そっか。下っ端のためにサンキューな」と相良さんが笑ってくれた。
しかし、次の瞬間にはがらりと表情を変え、酷薄な笑みを浮かべて続けた。
「久留米は確実に仕事はクビになるだろう。計画通り、社会的立場は奪ってやった。――ただ、こっからだ。警察に連れていかれても久留米は身の潔白を訴えるだろうが、端々に証拠があるから芋づる式に罪は露呈される。さっきの長谷川への傷害は確実だしな。だが、塀に入れさせる前に俺らに横流しさせる。落とし前つけさせるためにな」
(相良さんの落とし前って本当になんだろう……)
なんだかそわそわしていると、将継さんは眉根を寄せながら「相良……落とし前の件なんだが……」と切り出したけれど、相良さんは「お前は黙ってろ」と一蹴した。
「俺は許すつもりはねぇよ? 長谷川にしたことも、深月ちゃんにしたことも。生ぬるくブタ箱に直行させてやるつもりなんざ、さらさらねぇよ。塀ん中に入れんのはちぃーと懲らしめた後だ」
将継さんは何も言わなかった。
ただ、何かを決意したように僕をギュッと抱きしめようとしてくれたのだけれど――。
そこで将継さんの腕が不意に弛緩して。
どうしたんだろう?と思って後ろを振り返ると、彼がどこか戸惑った表情をしていた。
「将継さん……?」
「ん。なんでもない。少し腕に力が入らなかっただけだ。まだ肩肘張ってるのかもしれないな」
腕に力が入らない……?
「おい、長谷川! 大丈夫か!? さっき頭やられたせいか!?」
「ああ……多分大丈夫だ。一時的なものだろう」
「一時的なって……お前また怪我ぶり返したんじゃねぇのか!? 病院行くぞ!」
相良さんの必死の形相に将継さんは笑みを返して、「大袈裟にしてくれるな。たかだかグラスが当たったくらい。それより今は大事な時だ。私のことなんか心配してくれなくていい。私たちにはやるべきことがあるだろう?」と制した。
けれど、僕を抱きしめる将継さんの腕がなんだか弱々しくて――。
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