71.深月への頼みごと【Side:長谷川 将継】

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71.深月への頼みごと【Side:長谷川 将継】

 おかしいな。深月(みづき)を思いっきり抱きしめてるつもりなのに……右腕にちっとも力が入らない。  気が抜けたからだと軽口を叩いて誤魔化そうとしたけれど、さすがに相良(さがら)の手前、そんな言い訳を許してもらえるはずもなく――。 「病院行くぞ!」  当然のようにまくし立てる相良に、「大袈裟にしてくれるな」と笑って見せたけれど、右半身が腕だけに留まらずとにかくぎこちなくて……上手く表情を作れているかも不安な有り様だった。 「あぁん? バカか、お前! 全然大袈裟じゃねぇし、そんなん言われて『はい、そうですか』って引き下がれるわけねぇだろ!」  相良のどすの利いた声に小さく吐息を落としながら腕の中の深月を見下ろせば、当然というべきか。私の顔を不安そうに見上げている深月の視線とかち合う。  それすらしんどくて「大丈夫だ」と微笑んでみたものの、相良に「行くぞ」と深月から引き剥がすように腕を引かれた。  途端、その動きに上手く対応出来なくてつんのめってしまう。 (ああ、やっぱ右か……)  なんてどこか他人事(ひとごと)のように思いながら(かし)ぐ身体を立て直そうとしたけれど、思うように右足の踏ん張りがきかない。  人間何かあるときってのは走馬灯っていうのかな。色々スローモーションで見えるものだが、現状が正にそんな感じ。
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