71.深月への頼みごと【Side:長谷川 将継】

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 その代償だとでもいわんばかりの相良(さがら)の言葉に、「いや、好きでぶつけたわけじゃないんだが」と言い訳しながらも、内心相良の言葉に納得している自分もいる。  深月(みづき)を守るための咄嗟(とっさ)の判断だったとはいえ、頭にモノをぶつけられたのはまずかった……。  元々頭ん中へ染み出した血液が無くなっての退院ではなかったのだ。ただ、頭蓋骨内に溜まった血液が、脳を圧迫していなかったから小康状態と見なされていただけ。  相良が言うように、身体に少しでも異常を感じたらすぐにでも病院へ来るよう言われていたのを、私だって忘れたわけじゃない。  だが――。  さっきも言ったように今は大事な時期なのだ。深月のそばを離れるわけにはいかない。  それに、何より相良はさっき私たちに『久留米(くるめ)に落とし前をつけさせる』などという不穏(ふおん)な言葉を聞かせてきたばかりなのだ。  私には当事者として、相良(ゆうじん)の暴走を止める義務がある。 「今、入院なんかになって、身動き取れなくなるのは困るんだよ」  相良の腕に支えられたまま告げるには何とも滑稽(こっけい)な言葉だと自分でも分かっている。  だがこれが、今の私の嘘(いつわ)らざる本音なんだから仕方がないだろう? 「マジでバカなのか、長谷川(はせがわ)。――お前、すでに身動きが取れなくなってんの、自分でも分かんだろっ!」  相良にごもっともなお叱りを受けてもなお、私は抵抗をせずにはいられない。 「けど――!」 「けどもかかしもねぇ!」
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