71.深月への頼みごと【Side:長谷川 将継】

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「あ、あのっ! 将継(まさつぐ)さん……!」  私と相良(さがら)の不毛な応酬に、珍しく深月(みづき)が割り込んでくると、私の名を呼びながら感覚のある方の腕――左腕にそっと触れてくる。  その感触に、私は深月の方へ視線を移した。 「その……頼りないかも知れないですけど僕がっ! ……僕が将継さんの分まで相良さんと一緒に頑張ります! ……だからお願いです。将継さんはちゃんと病院に行って……僕たちを安心させてください……!」  そこでポロリと堪えきれなくなったみたいに涙をこぼす深月を見て、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。 「ほらみろ。お前の愛しの深月ちゃんだって俺と同じ意見だろーが! なぁ、長谷川(はせがわ)。俺はお前(てめぇ)がどんなにゴネても……最悪気絶させてでも医者へ連れてくからな!?」  相良の物騒な言葉に、私は「分かったよ……」と小さく吐息を落とした。  もちろん相良に強く言われたからじゃない。  これ以上深月を泣かせたくなかったからだ。  だけど――。 「なぁ相良。ちゃんとお前の言うこと聞くから……ちょっとだけ深月と二人っきりにしてもらえないか?」  私は自分の身体を支える相良の逞しい腕に左腕でポンポンと触れると、「頼む」と言葉を重ねた。  相良はちょっとだけ戸惑ったように瞳を揺らせてから諦めたように私をベッドへ座らせると、「五分だけだぞ?」と言い置いて深月と二人きりにしてくれた。  私はベッド際の壁へ寄り掛かるようにして身体を支えながら深月をじっと見つめると、口を開いた。 「……頼む、深月。相良が暴走しそうになったら……私の代わりに全力で彼を留めてくれないか?」
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