71.深月への頼みごと【Side:長谷川 将継】

5/5
前へ
/413ページ
次へ
「あの、将継(まさつぐ)さん……それって……」 「私と深月(みづき)の問題に相良(さがら)を巻き込んで、あいつに罪を犯させたくないんだ」  私のその言葉に、深月は潤んだ瞳で私を見詰めると「罪……?」と小首を(かし)げた。  深月は純粋な子だ。相良が落とし前だの何だの言っても、いまいちピンときていないのかも知れない。 「相良のやつが先生に落とし前つけさせるって言ってたの、覚えてるか?」  私の問いかけに深月がコクッとうなずく。それを確認した私は、慎重に言葉を選んで続きのセリフを(つむ)いだ。 「例えば……なんだがな。深月が久留米(くるめ)にされたのと同じことをするとか……そういう私的な制裁。恐らく相良はそういうことを考えてると思うんだ。――分かるか?」  さすがに〝警察へ渡す前に〟と言っていたし、殺そうとまでは考えてやしないだろう。だが深月に使ったのと同じ薬物を使った上でヤツの生殖器にそれ相応のダメージを与えて性的不能にするとか……生きていくのに支障のない臓器を奪うとか……生爪を剥がした上で指を詰めさせるとか……そういうことはやっても不思議じゃない気がしている。  想像したまま、そんな穏やかじゃない内容を深月に話すのはよくないと思ったから、私なりにかなりとオブラートに(くる)んで伝えたつもりだが、深月にはそれでも十分ハッとさせられる内容だったらしい。 「ぼ、僕もっ。相良さんにそういうこと、……絶対させたくありません……! 正直僕にどのくらい抑止力があるか分かんないですし……ものすごく力不足かもって不安ですけど……。でも……全力で相良さんの暴走を止めてみせます!」  深月はまつ毛に涙が乗っかったままの瞳を見開いて息を呑むと、ややして存外力強い調子でそう断言してくれた。 「だから……! 将継さんは……安心して治療に専念してください!」  その上で真っすぐ私を見詰めてそう懇願(こんがん)してくる深月に、私は「ああ、約束する」とうなずいた。
/413ページ

最初のコメントを投稿しよう!

740人が本棚に入れています
本棚に追加