72.僕と将継さんのために【Side:十六夜 深月】

2/7
前へ
/413ページ
次へ
 車が辿り着いたのは、どこだかもわからない物流倉庫が並ぶ一帯で、石矢(いしや)さんが車を停めると、相良(さがら)さんは「深月(みづき)ちゃん、見てて気持ちのいいもんじゃねぇから車ん中で石矢と待ってろ。ちゃんと終わったら報告すっから。連れてくだけって言ったろ? ――な?」と僕を諭してきた。 「で、でもっ!」 「大人の言うことは聞くこと。石矢、深月ちゃんのこと頼んだぞ?」 「承知しました」  石矢さんの返事を聞くと、相良さんは僕の肩にぽんっと手を置いて「――んじゃあ、後は俺に任せとけ」とだけ言い残して、車から降りて行ってしまう。    立ち並ぶ倉庫の群れに消えていく相良さんの背が見えなくなってしまい、僕は焦燥感ばかりが募った。  これから先生は相良さんに手酷い仕打ちを受けるんだろう。 (将継(まさつぐ)さんと約束したんだ……止めに行かなきゃ……) 「い、石矢さん! お願いです! 僕を相良さんのところへ連れて行ってください!」 「若頭(カシラ)の命令ですから。俺たちはここで待ちましょう」  ここで黙って待っていたら将継さんとの約束が果たせない。何とかして石矢さんを説得しなきゃ。 「石矢さん、僕……将継さんと約束したんです。僕たちのために、相良さんの手を汚させちゃいけないって……。だから僕は止めるためにここまで来ました。お願いします! 僕は……相良さんに危ないことはして欲しくないんです……お願いします……」  思わず瞳を滲ませると、石矢さんは少し戸惑った顔をして「長谷川(はせがわ)さんが……」とぽつりと呟いた。 「石矢さん、お願いします。石矢さんが怒られるなら、僕が代わりに殴られても……いいです。だから――」  石矢さんはハンドルに突っ伏してはぁーと溜め息をつくと「深月さん」と後ろを振り返って僕の瞳を覗き込んできた。 「若頭(カシラ)に聞きました。深月さん、俺が深月さんに暴行してしまったことを許してくれたって。長谷川さんにも恩義があります。――俺が殴られますんで一緒に行きましょうか」 「……石矢さん……ありがとうございます」
/413ページ

最初のコメントを投稿しよう!

740人が本棚に入れています
本棚に追加