72.僕と将継さんのために【Side:十六夜 深月】

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***  石矢(いしや)さんに案内された倉庫の前に辿り着くと、中からは相良(さがら)さんの怒声が外まで響いていた。  石矢さんが「どうぞ」と、倉庫の扉を静かに開けて僕を中に入るよう促してくれたので足を踏み入れると――。  椅子に座らされた先生が上半身と足首を荒縄で(くく)り付けられ、目隠しをされていた。先生の背後には相良さんの部下なのだろう、屈強な男性二人が並んでいる。 「頼む! 許してくれ! 罪なら警察で償う! だから命だけは!」 「殺しゃあしねぇよ。警察(サツ)で償うのは当然だ。――だがな、その前にちぃーと懲らしめてやんねぇと俺の気が済まねぇんだわ。指の一本や二本で済むと思うなよ、オラッ!」  相良さんが先生が座る椅子をガッと蹴りあげると、先生は「ひっ!」と悲鳴を漏らして、床にじわじわっと水分が(したた)り、失禁したことがわかった。 「相良さん!」  慌てて叫ぶとこちらを振り返った相良さんの瞳は見たことがないくらい仄暗く、僕まで恐怖で身がすくんでしまう。 「石矢、テメェ……深月(みづき)ちゃんと待ってろって言ったよなぁ? 何でここにいる? あぁ?」  つかつかと石矢さんの方へ向かって歩いてくる相良さんに、僕は思わず石矢さんの前へ出て両手を広げていた。 「ぼ、僕が無理矢理連れてきてもらったんです! 石矢さんは、何も悪くありません! 殴るなら、僕を殴ってください!」  ぎゅっと目を瞑って叫んだら、相良さんはチッと舌打ちをして、「まぁ、来ちまったんなら仕方ねぇ。深月ちゃんも見てぇのか? この男に落とし前つけさせるとこ」と冷酷に笑った。  僕の声に気付いた先生が「深月くん!?」と縋るような声を出してきたけれど、正直僕だっていい気分にはなれない。  もう決別したし、将継(まさつぐ)さんや僕にしたことを許しているわけではないのだ。ただ、相良さんや将継さんのために暴行されるようなことがあってはならないと思っているだけで。 「勝手に喋ってんじゃねぇよ!!」  相良さんの怒声がまた響き渡る――。
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