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「長谷川さんは……どうして……その……。こんな得体の知れない僕のことをそんなに買いかぶってくれるんですか?」
ややして探るようにポツポツと落とされた言葉に、私は静かに微笑み返した。
「さて、どうしてだろうね? 私にもよくは分からないんだけど……何故か深月のことを見てると、咲江から『ちゃんとその子と向き合わなきゃ駄目ですよ?』って言われてる気がするんだよ。ホント、私の勝手な思い込みなんだろうけどね」
――気持ち悪くてすまないね、と付け加えたら、小さくフルフルと首を横に振られた。
「えっと……き、気持ち悪くはない、ので……大丈夫、です、多分」
精一杯言葉を選んで私を傷つけないように頑張ってくれているらしい深月に、私は「有難う」とつぶやいた。
多分、と付け加えたところが深月の誠実な気持ちを表しているようで嬉しかったと言ったら笑われるだろうか。
「――さぁ、いつまでも玄関先で立ち話も何だ。とりあえず中、入ろうか。……深月はコーヒーと紅茶、どっちがいい?」
ケーキは咲江がいつもしてくれていたように、ちゃんと綺麗な器に盛り直してテーブルに並べよう。
そんなことを思いながら、私は深月を奥へと誘った。
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