72.僕と将継さんのために【Side:十六夜 深月】

5/7
前へ
/413ページ
次へ
 相良(さがら)さんが部下の男性から短刀を受け取ると、手早くスーツの上着を脱いで、自身のシャツの肩から下の布地を切り裂いた。  そのまま布を僕の血液が(したた)る右手にぎゅっと結んで止血をしてくれる。 「深月(みづき)ちゃんは、そんなに長谷川(はせがわ)が好きか……」 「はい。僕は将継(まさつぐ)さんが好きです。好きな人の……願いを叶えてあげたいんです。どうしても、先生を手にかけるなら……代わりに僕を殺してください」  ぐずぐずと嗚咽交じりに喋ると、不意に大きな手のひらが頭の上に載せられた。顔を上げてみると、そこにはいつもの飄々とした瞳の相良さんの顔があって。 「あーあ。俺はいい悪友(ダチ)を持ってマジで幸せ(もん)みてぇだな。更にはその恋人がこんな健気なかわい子ちゃんときてる」 「……相良さん?」 「おい」  相良さんが何かを諦めたように穏やかな口調で部下の男性を呼ぶと、静かな声で「久留米(そいつ)警察(サツ)に連れてけ」と命じた。 「相良さん……ありがとうございます……」 「あー、もう泣くな。深月ちゃん。んな怪我までさせちまって……本当に悪かった。長谷川(はせがわ)が元気になったら半殺しにしてもらうから許してくれ。スマン」  僕はぶんぶんっと首を左右に振ると「僕と、将継さんのためを思ってくれた相良さんの気持ちだけで……僕たちはもう報われてるんです。ありがとうございます」と笑って見せた。  相良さんが「おーい、石矢(いしや)ぁー」と石矢さんを呼ぶと、石矢さんは「は、はい! 若頭(カシラ)!」とピンッと背筋を伸ばした。 「帰るぞ。手負いのお姫様乗せんだから安全運転でな」 「はい!」 (将継さん……僕、約束守れました……)
/413ページ

最初のコメントを投稿しよう!

739人が本棚に入れています
本棚に追加