72.僕と将継さんのために【Side:十六夜 深月】

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***  相良(さがら)さんが「じゃあ後は二人で思う存分イチャついてくれ」と言い残して病室を去って。僕は将継(まさつぐ)さんの手を握っている。 「――そうか、石矢(いしや)が……。久留米(くるめ)も無事に警察の手に渡ったんだな」  事の顛末をすべて説明すると、将継さんはどこか感慨深げに琥珀色の瞳を(すが)めた。 「はい。全部……終わりました。僕と先生の問題のせいで、将継さんにこんな怪我させて本当にごめんなさい……」  言ったら、将継さんは「元はと言えば私が深月(みづき)を好きになっちまったのが悪かったんだ」なんて悲しげに睫毛を伏せるから焦ってしまう。 「す、好きになったのは僕です! 将継さんは僕を揶揄(からか)って好きとか言ってくれてたのに、本気にして……」  僕の言葉に彼は目を瞬かせて、「それ、マジで言ってる?」と呆れたように僕を見つめてきた。 「……え?」 「私の一目惚れだけど? 恋人になるまでの好きや愛してるは全部冗談扱いだったわけ?」 「え? えっ? えっと……」  しどろもどろになっていると将継さんはククッと笑って、僕が握りしめていた彼の手を解くと、指を絡ませて握り締め返された。 「なぁ、深月。キスして?」 「……えっ!? 僕……から、ですか?」 「だって、病み上がりでまだ動けねぇもん」  その言葉に僕は耳まで(あか)くしながらも、彼の口付けを求めていたのは自分も同じだったから――。  そっと触れるだけのキスを落とす。  しかし次の瞬間には後頭部を押さえ込まれ、咥内(こうない)に軟体が滑り込んできて、舌を捕らえられてしまう。後頭部の手のひらは力強い。  僕の上唇をぺろっと(めく)って離れていった唇に「……動けないんじゃなかったんですか?」と訊ねれば、ケロッとした顔で「ちぃーと甘えたかっただけ。かなり動ける」といたずらっぽく笑いながら言われてしまうから恥ずかしくて仕方がなかったけれど――。 「将継さん……僕、一週間も一人であんな広いホテル……寂しいです。早く退院してください、ね?」 「しばらく咲江(さきえ)と一緒に我慢してくれな? ――でも、ま。早く私たちの家に帰ろうな、深月」  ニッと笑ってくれた将継さんに、僕は心の底からの笑顔で「はいっ!」と返事をしたら、彼も嬉しそうに笑ってくれるから。 (将継さん……これからは幸せばかりだよね)
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