73.許しと後悔と償いと【Side:長谷川 将継】

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73.許しと後悔と償いと【Side:長谷川 将継】

 脳の手術と言っても私が受けたものはおそらく脳手術の中ではごくごく簡単なものだったんじゃないだろうか。  担当してくれた医師が言うには、私のように時間を掛けてゆっくりと血が溜まった場合、そこへ溜まっている血液は大概ドロドロしたものじゃなく割とサラサラしているらしい。  術前の説明で、だからこそ小さな管で頭蓋骨内に溜まった血液を抜くことが可能なのだと説明を受けた私は、頭に開ける穴も管が通る程度の小さなもので済む予定だと聞かされて、『なんだ、そんなもんか』と思ったのだ。  だがその際は当然というべきか。最悪の事態も想定した話――例えば通した管が運悪く脳を傷付けてしまった場合には開頭手術に切り替えるかも知れません、だの何だの――も一緒にされたので、深月(みづき)相良(さがら)は結構ソワソワしていた。対して私自身は案外落ち着いたもので、『ま、そりゃそうだよな』程度にしか感じていなくて――。  相良は私のそういう淡白な反応も、『脳が圧迫されてるからに違いねぇ』とかしきりに言っていたが、正直な所ここまできたらなるようにしかならないし、先生を信じて全てを(ゆだ)ねるしかない。そう言って何でもないことのように笑ってみせたら、困ったような顔をされてしまった。  まぁ、相良がそんな風にゴネたのにも、深月が微妙な顔をしたのにも〝ちゃんと理由(わけ)〟があって。その真相を私が知ったのは、手術をした翌日のことだった。 *** 「長谷川(はせがわ)! スマン! 打ち首の準備なら出来てる!」  面会時間が始まってすぐ。深月(みづき)を連れて私の病室を訪れるなり、相良(さがら)が勢いよく頭を下げてきた。  「俺、お前の気持ちも知らねぇで暴走しちまった上に、お前の大切なお姫様に怪我までさせちまった……本当に悪い」  その言葉に視線を転じれば、相良のすぐそばへ立つ深月の右手に包帯が巻かれていて――。 「怪我!? おい! 深月! 大丈夫なのか!?」  その姿に驚いて思わずベッドから飛び出そうとしたら、深月が慌てたように私の方へ駆け寄ってきた。 「将継(まさつぐ)さん! 違うんです! 相良さんのせいで怪我したわけじゃなくて……僕が勝手に……。でも、将継さんとの約束、ちゃんと守れました」  私を見上げて微笑む深月の表情は、痛々しい包帯姿とは裏腹。やけに誇らしげなのだ。
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