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「私はさ、何だか私のことばかり話してしまっているけど、深月も聞いて欲しい話があるなら、遠慮なく言って欲しいんだ」
聞いて欲しい話……。
あまりにも重苦しい話になってしまうので出来れば言いたくない話ばかりだし、病気のことなんて絶対に言えないし。
「あの……僕、本当のお父さんが小さい時に死んじゃってて……。今は……義父がいるんですけど……あんまり、仲が良くなくて……。それで……」
当たり障りのない部分だけ話そうと思ったのに、今も尚、母と実家にいる義父のことを思い出しただけで瞳を滲ませてしまって。
そんな僕を見た長谷川さんが少し慌てたように、「あー、悪い。そんな無理に話さなくていいから。ケーキ食え? な?」と微笑んでくれた。
コクリと頷いて、一度深呼吸して瞳を乾かしてから「……頂きます」と呟いてフワフワのマロンスフレにフォークを立てると、彼も同じようにケーキを口に含んだ。
僕は思わずポロリと言葉を滑らせる。
「長谷川さん……なんか……お父さん……みたいです」
それを聞いた彼が飲んでいたコーヒーを少しむせるように咳き込んで、琥珀色の甘い瞳を僕と絡めた。
「お父さんって……心外だね。確かに深月からしたら私はおじさんかもしれないけれど──」
そこで彼が椅子から立ち上がって僕の傍らに近付いてくるのでビクッと肩を震わせると長谷川さんの手が僕の口元に伸びてきて、唇の端を拭われた。
彼の指に生クリームが付着していて、突然のことに目をパチクリしている僕の目の前でペロリと舐めて見せた。
「お父さんなら、こんなことしねぇーわな?」
途端、僕は頬に熱を集めて俯いてしまう。
――何だか、ドキドキするのは何でだろう?
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