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ケーキを食べ終えて、長谷川さんが食器を洗っているのを背後から(至れり尽くせりで申し訳ないな……)と見つめる。
僕は相変わらず黙ってソワソワと椅子に座っていたのだけれど、食器を洗い終わった長谷川さんがタオルで手を拭きながら「ちょっと洗濯物取り込んできていい?」と言ってきたのでコクリと頷く。
「あ、あの……僕も、手伝いますか? 僕の服も……洗濯してもらっちゃいましたし……。あと……今、借りているこの服は……僕が洗濯してお返ししてもいい……ですか? それとも……また……来たら迷惑……ですか?」
窺うようにボソボソと喋ると、彼はまた僕の両肩を押さえて椅子に押し付け、肩に触れられた手が熱を持ってビクッと震える。
「変な気は遣わなくていい。深月はここでゆっくりしてな? あと、その服も私が洗濯するから気にするな。……あー、けど――キミがまたここに来てくれるってのはえらく魅力的だな。実はさ、昨日深月が寝てた布団も干してあるんだ。今日も泊まってくれたらいいな?なんて期待してね」
(えっ⁉ 今日も泊まる⁉)
長谷川さんの申し出にオロオロと視線を泳がせていると、僕の動揺など些かも気にしていないように彼は言葉を続けた。
「ほら、言ったよね? キミも一人で飯を食うのが億劫ならこれからも一緒に食事をしないか?って。こうして会ったのも何か運命の悪戯だと思うんだ。深月、ろくなもん食ってねぇーだろ? そんな今にも折れそうな身体見てたら放っておけないんだよ」
確かに、ろくなものを食べていない。
食べていないけれど、でも――。
そこまでお世話になってしまったら僕はどうお礼をしたらいいんだろう?
今、無職だし……家賃もギリギリなくらい金もないし。
(ほんと僕……情けないな……)
思わず自分の不甲斐なさに吐息を落としながらも、長谷川さんの瞳を恐る恐る覗き込んだ。
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