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二十代半ばか……そのあたりだろうか。
どこか仄暗い影があるけれど、それを差し引いてもとても綺麗な子だと思った。
いや、もしかするとその影が、逆に色気を添えているのかも知れない。
(芸能人か何かか?)
そう思ってしまうほどに整った容姿。
艶々とした黒髪も、透き通るような色白の肌も、線が細すぎるように見える華奢な身体のラインも。
何もかもが危うい感じがして、息を呑むほどに美しい、と思った。
静かに座っているだけなのに、存在に気がついてしまったら、惹きつけられずにはいられない。
そんな雰囲気を持った青年だった。
妻を娶って人並みの家庭を築いていた私だが、実は性的対象に男女の垣根はないバイセクシャルだ。
たまたま一生をともに過ごしてもいいと思えた相手が女性――咲江――だっただけで、もし〝彼女〟が〝彼〟だったとしても、私は咲江と一生をともに過ごすことを選んだだろう。
だが――。
妻が鬼籍に入って五年目にして初めて。
私は胸の高鳴りを覚えた。
そうして思った。
これはまずい、と。
だってそうじゃないか。
彼の方からしてみたら、同性の……しかも歳のかなり離れたおじさんなんて絶対に眼中に入らないはずだ。
***
「長谷川社長、はい、熱燗お待ち遠様ぁー」
屈託のない声とともにコトリと置かれた徳利と猪口の気配に、私はかろうじて青年から視線を引き剝がすことに成功した。
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