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すぐにそんな考えを振り払おうとしたけれど、深月のどこか中性的にさえ見える線の細さと美しい容姿は、下手をするとノンケの男でさえも惑わせることがあるんじゃないかという懸念がどうしても自分の中から拭い切れなくなってしまった。
「あの……長谷川、さん?」
深月の頭へ手を載せたまま固まってしまった私を見上げて、深月が怪訝そうな声を出す。
「あ? あぁ、何でもない」
私は何とかそう取り繕うと、深月を台所へとうながした。
***
筑前煮は早くから仕込んでおいたのでもうすっかりレンコンなども柔らかく煮えて、火を止めて置けば味が沁みるだろうと思われた。
下味をつけて冷蔵庫に入れておいた豚のしょうが焼きは、最後に焼けばいいだろう。
茶わん蒸しの中に入れる鶏もも肉を一口大に小さく切りながら、
「深月。おひたしも作りてぇんだ。悪いけど冷蔵庫に入ってるほうれん草を出して汚れを洗い流してもらえるか?」
視線だけで野菜室にちらりと視線を流したら、深月がおずおずと冷蔵庫を開いた。
「あ、あの……これ……」
「ああ、根元に切り込みを入れて茎をバラしてから汚れを洗い流せばいい」
「え……あの、切り込みって」
オロオロした様子に、この子は料理がからっきしダメなのかな?と思って。
作業を中断して一旦石鹸で手洗いをすると、私は深月の横へ立った。
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