10.深月の怪我【Side:長谷川 将継】

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「この辺をこう、包丁でザシュッと落とすだろ。そしたら流水でこんな風に洗うんだ」  言いながら、結局頼んだことは自分で済ませちまったな?と思って。 「なぁ、ラップにこれをくるんでもらえるか?」  いつもなら熱湯を沸かして湯がくところだけど、深月(みづき)にそれを頼んだら火傷(やけど)しかねないと思って、急遽(きゅうきょ)予定変更。  キッチンの片隅のラップを指さしたら、深月が「ラップ?」と不思議そうな顔をする。 「電子レンジでチンしようと思ってね」  言ってから、うちの電子レンジはチンとは鳴らないんだっけと思ったら、ちょっぴりおかしくなって。  思わずククッと笑ったら、深月にキョトンとされた。 「……長谷川(はせがわ)さん?」 「ああ、ごめん。自分で言っといて何だけど……レンチンって死語だったよなって思っただけだ」 「……確かにそう、ですね」 「だろ? ちなみにうちのはさ、調理完了を知らせる音楽が流れるんだけど、深月ん()のはどう?」 「うちのは……」  なんてどうでもいいことを話しながら、深月に「こうやってラップの上にほうれん草を置くだろ? そしたらクルクルッと軽く包んでから……」と作業を進めるのも忘れない。 「あの、何秒くらい……?」 「んー。とりあえず五百ワットで一分くらいかな?」  深月がレンジにほうれん草をセットしたのを見届けてから、私は冷蔵庫からシイタケを取り出した。  茶わん蒸しに入れるから小さめのやつを選んだけれど、さすがにこのまま器へ入れるには大きすぎる。  温めを開始した電子レンジの前から動かない深月に手招きすると、「悪いんだけどさ、シイタケ。洗ってから切ってもらえるかな?」と、手にしていた二つを手渡した。  どこか戸惑いつつも、深月が流水で傘の裏側部分を洗い始めたのを見て、私は別の作業に移ったのだけれど。 「わぁー! ちょっと待って深月、いくら何でもそれはっ!!」
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