10.深月の怪我【Side:長谷川 将継】

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 まな板に乗っけたシイタケに、まるで薪割(まきわ)りの(おの)みたいに包丁を振り下ろそうと構える深月(みづき)を見て、私は慌てて彼に駆け寄った。 「えっ」  でも、きっとそれがいけなかったのだ。  急に声を掛けたからだろう。  深月の視線がこちらへ逸れて。 「(いた)っ」  次の瞬間、惰性(だせい)のまま振り下ろされた包丁が深月の指先を掠めて、深月が苦痛に眉根を寄せた。  それと同時、ポタポタと鮮血がまな板に垂れるから。 「深月っ」  思わず深月の手を取った私は、傷口にキッチンペーパーを押し当てながら、彼の手を心臓より高い位置にグイッと引き上げた。  そのせいでヨロリとよろめいた深月を抱き留めたら、すぐ眼前の深月の頭から、シャンプーと彼自身の体臭が混ざった香りがふわりと立ち昇って。  電子レンジが調理完了の軽快な音楽を鳴らしているけれど、そんなのを気に掛けているゆとりはなくなってしまった。  真っ赤な血が放つ鉄のにおいと、クラクラしそうに甘い深月自身の芳香――。  グッと奥歯を噛みしめていないと、妙な方向へ心が流されてしまいそうで、私は正直まずいな、と思った。
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