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「なんかさ、深月見てるとさ……つい、驚かしてぇっつーか……まぁ、今のは吸血鬼ごっこ」
吸血鬼ごっこ……。
こんな大人の男性から、そんな幼気なワードが出てくるとは思わなくて、濡れた瞳もいつの間にか乾いていてクスッと笑い声を漏らしてしまうと長谷川さんが「あ」と、少し驚いた声を出した。
「やっと笑った」
「……え?」
そう言われてみれば……長谷川さんの前で笑ったこと、一度もなかったっけ?と今更のように気が付く。
(僕、どこまで無愛想だったんだろう……)
「普段のビクビクしてる深月も小動物みてぇーで可愛いけど、笑った方がもっと可愛いぞ?」
視線も逸らさずに可愛いだなんて言われて、僕の頬は今どんな色をしているだろうとソワソワしてしまう。
「えっと……無愛想で、すみません……」
ククッと笑った長谷川さんが「謝ることじゃねぇけどさ」とふわりと頭に掌に載せてくるから、僕はまた所在なげに視線を泳がす。
「とりあえず、吸血鬼ごっこで血は止まったみてぇだ」
言いながら、コットンに消毒液を浸して優しく傷口を拭ってくれるので、何だかくすぐったくてまた笑いそうになる。
そのまま絆創膏を巻いてくれて「よし、これで大丈夫かな?」と長谷川さんがまた頭をクシャクシャッと撫でてくるので「あ、ありがとうございます……」と俯いてしまう。
そうして、またもやついつい言葉を滑らす。
「やっぱり……長谷川さん、お父さん……みたいです」
ポツリと喋ると彼は困ったように頭をガシガシと掻いた。
「またそれか? 深月はどうしても私をお父さんにしたいのな? ――そうだな……だったら……」
色素の薄い瞳で射抜かれて、思わず肩を震わせると長谷川さんが僕の耳元に頭を寄せてくるのでビクッと縮こまると耳朶で吐息のように囁いた。
「将継」
「……え?」
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