693人が本棚に入れています
本棚に追加
それから僕たちは二人で作った(僕は電子レンジに入れただけ)筑前煮、豚のしょうが焼き、茶わん蒸し、ほうれん草のおかか和え、鮭のかす汁を前に「頂きます」をした。
かす汁を一口すすると、朝作ってもらった玉ねぎと豆腐のみそ汁同様、久しく口にしていなかったコンビニ弁当やレトルト食品以外の家庭の味に心に沁みるものがある。
筑前煮に箸を付けて咀嚼していると、将継さん(なんだかやっぱり照れ臭い……)が「美味いか?」と声を掛けてきたのでコクコクと頷く。
「はせが……まさ……つぐさんは凄いです……。僕、料理なんて一切出来なくて……。いつもコンビニ弁当かレトルト食品しか食べてなかったから……。もう十年くらい……」
将継さんが呆れたように僕を見つめた。
「これだから放っておけないんだよ。深月、さっきの──うちに越してこないか?って話だけど、マジで考えてみねぇーか? お父さんは心外だけど、まぁ、あえて言うなら監督って感じで面倒が見たいんだ。確かに昨日今日会ったばかりのおっさん家に来るってのはちょっと躊躇するかもしんねぇけどさ。寂しくないか? そんな独り暮らし。ついでに言うなら私が寂しいんだ。家で会話出来る相手がいないからね」
確かに僕の独り暮らしの毎日はどうしようもなく虚無で、人生の無駄遣いみたいな時間だから、今こんな風に将継さんが傍にいてくれるのはとても温かい。
だけど――。
先刻のとおり、僕は食事作りの手伝いすらまともに出来ない有様だし、やっぱりお礼が出来ないのは心苦しすぎる。
「は、せが……まさつ、ぐさんにお礼が出来ません……。今……この夕飯だって……どうお礼したらいいか……」
将継さんが、愉快そうに喉を鳴らした。
最初のコメントを投稿しよう!