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03.憂い【Side:十六夜 深月】
まただ。
スキニーパンツのポケットの中で、何回も何回も絶えずスマートフォンの鳴動が臀部に振動を伝えている。
電話の主は確認せずとも店長だろう。
僕──十六夜 深月──は、もう何度目だろうというアルバイトのバックレをまたもややらかしたのだ。
珍しく長く続いたコンビニのアルバイトだったけれど、バックレる理由はいつだって同じ。
勝手に僕の容姿だけを見て理想像を押し付けて群がってくる女の子や、更には男までもがいたりするからたまったものじゃない。
今回もまた、しつこくモーションをかけてくるバイト先の女の子に嫌気が差してバックレてしまった。
(本当に僕、社会人として最低だなぁ……)
二十七歳にもなって、こんなことばかり繰り返している僕は、とっくに成人した大人であるはずなのにどこまでも幼くて。
バイトに行くつもりだった足が我知らず進行方向を変えて、気づけば何の気なしにフラフラとこじんまりとした居酒屋に着地していた。
マウンテンパーカーのポケットに突っ込んでいる財布には、千円札が数枚だったはず。
ただお酒だけ飲めればいいやと現実逃避よろしく適当に入ったその居酒屋は思いのほか居心地がよくて。
つまみさえ頼まずにビールだけ飲んで、かれこれ一時間程ぼんやりと思考を飛ばしていた。
けれど、お酒には滅法弱い僕はあっという間に酔いが回って。
朦朧とする意識の中で嫌でも考えてしまうのは、自分の身体のコンプレックスのこと。
人に言い寄られることは名誉なことなんだろうとは思うけれど、僕は誰かと恋愛なんて出来ない事情を抱えている。
だから、恋だの愛だのそんなものは端から諦めているし、ろくに友達もおらず孤独に塗れて生きている。
僕は、欠陥品なんだ──。
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