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「後は自分で脱げるよな?」
「……はい」
自制心をフル稼働させているつもりではあったけれど、ズボンを下げるところまで手を貸してしまったら、欲望を抑え切れる自信がなくて。
私は深月がうなずくのを確認するなり早々に尻尾を巻いて退散した。
「身体。──洗い終わったら風呂ん中にある操作パネルの呼び出しボタンで知らせて? すぐ来るから」
我が家の給湯システムは、会話が出来るほどハイスペックなものではない。
風呂場のリモコンパネルで呼び出しベルを鳴らすと、台所にあるリモコンが「風呂から呼ばれてますよ?」と音を鳴らしてくれるだけだ。
咲江が存命の頃は「シャンプーが切れてました。詰め替えを持ってきてください」とか、そういう用事があるときに風呂からよく呼び出し音が鳴ったものだ。
一人身になってからは当然押すことがなくなっていたボタンだが、五年ぶりに使えると思ったら何となく感慨深くて。
「もし呼ばなかったらお仕置きだからね?」
深月のことだから釘を刺しておかないとそういう可能性もあると思った私は、脱衣所を出る寸前、入り口にふと立ち止まって。
深月の身体を見なくて済むよう、振り返らないままにそんな言葉を投げかけた。
***
脅しがきいたんだろう。
深月は身体を洗い終わったところでちゃんと呼び出しボタンを押してくれた。
ズボンのすそを膝下までまくり上げた私は、濡れては面倒なので上半身は裸になって深月の背後に立ったのだけれど――。
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