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「痒いトコ、ないか?」
泡まみれの深月の耳元へ唇を寄せると、私は指先で耳朶をつまむようにして耳についた泡を軽く拭ってからそう問い掛けたのだけれど。
不意打ちのように耳たぶへ触れて、話しかけてしまったからだろうか。
深月がビクッと身体を震わせて「んっ」と小さく喘いで首をすくませた。
そんな深月の下腹部にふと視線を落とした私は、濡れそぼってぺったりと彼の身体に張り付いたタオルの下、深月の雄芯が、熱を持ったように勃ち上がり掛けているのを見て思わず息を呑んだ。
「ひょっとして……私にこうされるの、気持ちいい?」
シャンプーしていることを問うているようで、その実別のことを問いかけているようにも聞こえるセリフを吐息交じりに深月の耳孔へ吹き込めば、「やだっ、長谷川さっ、耳は……っ」と深月がつぶやいて。
次の瞬間、まるで自分の反応に戸惑ったみたいに慌てて前かがみになった。
「どうして駄目なの? ――ひょっとして……反応しちゃった?」
言って、「俺としても不本意なんだけど……長谷川さんって呼んだお仕置きはしなきゃ駄目だよね?」と意地悪く告げてから、深月の小さな胸の突起を、ほんの一瞬だけ爪先でピンッとつま弾いてやる。
咲江が死んで以来もう何年も自称することのなくなっていた、それこそセックスするときにだけ出てくる〝俺〟という人称が無意識に出てしまったことにも気付けないまま。
私は眼鏡越し、驚いたように瞳を見開いた深月を熱のこもった目でじっと見つめた。
「俺が深月の父親にはなり得ねぇってこと、いい加減自覚した?」
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