13.二人の告白【Side:十六夜 深月】

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 将継(まさつぐ)さんの隣に坐して、ポツリポツリと言葉を紡いだ。 「僕は……中学生の時……義父に……その……性的虐待を、受けていました……。それで、中学卒業と同時に実家を出て……高校にも行ってなくて……病気にもなってしまって……。今日までずっと……一人でバイトを転々としながら生きてて……。でも、僕は恋愛経験もコミュ力もないのに、……見た目だけで寄ってくる人間ばっかで……。昨日は……そんな理由でまたバイトをバックレて、ヤケ酒してたんです……。本当、どうしようもない欠陥品なんです……」  言いながら、我知らず涙がこぼれていて「だから……長谷川(はせがわ)さんに、こんな風に優しく……してもらえるような……人間じゃないんです……」と続けると、突然頭に温かい手が載った。 「深月(みづき)、丁度いいところでペナルティー出してきたな」  その言葉にはたと気付いて今度はどこを触られるんだろうとギュッと目を閉じて身を縮こませてしまったけれど、どこにも触れられる気配がないので恐る恐る瞳を開けると――。  優しく両手で包み込むように頬に伝う涙を指で拭ってくれた将継さんが、「明日も泊まっていくこと。確定な?」と微笑んだ。 「で、でも僕……ほんと、こんなのなので……これでも、一生懸命……猫を被ってるんです……。本当の僕は、もっとだらしなくて……生活力もなくて……それから、それから──」  尚も言葉を言い募ろうとすると、彼がそれを遮った。 「深月にはもう一個ペナルティーが必要みてぇだな」 「……もう一個……ですか?」  窺うように顔を覗き込むと、将継さんが(こう言ったら失礼だけど)舐めたら甘そうな琥珀色の瞳を(すが)めた。 「次に自分を卑下(ひげ)したら更にペナルティーな? そんじゃ、私も風呂に行ってくる。今度はちゃんとダラダラスマホいじって待ってんだぞ? そのまんまの深月でいりゃーいい」  それだけ言って将継さんは風呂場へ向かってしまった。 (何も同情の言葉を掛けてこないのが、こんなにも楽だなんて知らなかったな……)  やっぱりまた瞳から雫が落ちて、それを無理矢理手の甲で拭うと、僕は言われたとおりにスマートフォンを取り出していた。
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