15.熱に浮かされて【Side:十六夜 深月】

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 人様の家の冷蔵庫を勝手に開けるのは忍びなかったけれど、心の中で(将継(まさつぐ)さん、ごめんなさいっ!)と謝罪して開けさせてもらう。  そこでドアポケットの下段に緑色の瓶に貼られた赤いラベルに『東北華人(とうほくかじん)』と書かれた、開栓されている日本酒らしきものを見つけて。 (ビールしか飲んだことないけど、日本酒飲めるかな……?)  日本酒が飲めるかは定かではなかったけれど、このままでは眠れないと判断して食器棚から(またまたごめんなさい!)グラスを拝借して薄桃色の座布団が敷かれたダイニングチェアに座ってなみなみと注いでみる。  一口含むと少しだけフルーティーな、けれどそれよりなによりも飲み慣れない辛口な喉越しに、たちまち頭がカッと熱を帯びるのがわかる。  酒には滅法弱い上に、ビールとは全く違う急速に身体を巡る酔いに、グラス一杯を飲み干す頃には頭がフワフワしてきて。  しばらくダイニングテーブルに頬杖をついていたのだけれど、どんどん酩酊(めいてい)していくのが自分でもわかって、これなら眠れそうだ……と椅子から立ち上がると、思いの外酔っ払ってしまったのだろうか、ガクンと膝が折れる。  朦朧とする意識の中で(グラス洗わなきゃ……)と、幸いそこだけは理性を取り戻して、怪我をしていない方の手でグラスを(ゆす)ぐとシンク横の水切りに伏せた。  ぼんやりとした頭と覚束(おぼつか)ない足取りで僕は自分の部屋へ戻るべくキッチンを後にして寝室の(ふすま)を開けたのだけれど――。  布団に潜り込むと何か温かな感触がして。 (あれ? 抱き枕なんてあったっけ? でも気持ちいからいいや……)  僕はをぎゅっと抱き締めて、無意識に「先生……」と口走りながらウトウトと温かな抱き枕に縋り付いた。 「深月(みづき)⁉」  そんな声が聞こえたような気がしたけれど、僕はもうフワフワと気持ちがいいままに意識を手放していた。
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