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将継さんの静脈が透けそうな薄い瞼が朧気に開かれたのは時計の針が六時を少し過ぎたところだった。
眼鏡は枕元に置かれているので、至近距離で見るアンバーカラーの瞳は思わず食い入るように見つめてしまうほどに美しい。
「ま、将継さん、すみません……! 僕、眠れなくて……勝手にお酒を頂いて……部屋を間違ってしまった、みたいで……」
腕の中、懸命に身の潔白を説明しようとオロオロと目を泳がせながら謝ると、将継さんは瞳を眇めて穏やかに笑った。
「おはようさん、深月」
抱き締め直すようにぎゅっと再び背中に回された腕の力が強まって、今度こそ鼓動を感じてソワソワしてしまう。
「ま、さつぐさん……あの、熱がある……みたいです」
将継さんが心配そうに「大丈夫か? 深月?」と瞳を覗き込んでくるので僕はブンブンッと首を横に振る。
「ぼ、僕じゃなくて将継さんが、です……!」
「私? あー……そう言われれば何だか身体がだりぃーな……」
「……ご、ごめんなさい、裸で僕の頭洗わせたり……したせい、で……」
オドオドと謝ると将継さんが苦い笑いを見せて「いや、有難いことに天罰が下ったみてぇだ。気にすんな」と、僕の肩口に顔を埋めてくるのでビクンと身体が跳ねる。
「ま、将継さん……? 天罰って……?」
「――秘密。深月さ、すげぇ良い匂いするよな。マジで癒されるんだわ」
「あ、あの……体温計とか……風邪薬とか、おでこに載せられそうなタオルとか、どこにありますか?」
しどろもどろで訊ねると将継さんがますます密着してくるから、僕の鼓動は今どう伝わっているだろうかとソワソワしてしまう。
「んなことより――〝先生〟って、誰? 深月、そう言いながら私に抱き着いてきたんだけど覚えてねぇか?」
(僕……そんなことを口走ってしまったのか……)
「……えっと……僕の病気の、カウンセリングをしてくれている……先生のことだと、思います……」
「抱き着きたくなるような先生ってこと?」
「そ、それは……、その……そ、そんなことより将継さ、んの熱の手当て……しないと駄目、です……だから、その……」
この抱き締められている腕を離してもらおうと言葉を紡ごうとしたのだけれど、でも――。
口を開きかけた瞬間。
将継さんの手がスウェットの裾から忍び込んできたかと思えば、腰をゆるりと擦られて、「ひゃっ」とぞくりと肌が粟立って思わず抱き締められている腕をぎゅっと掴んでしまった。
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