03.憂い【Side:十六夜 深月】

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 こんな身体になってしまったのは、(ひとえ)義父(あの男)のせいに他ならない。  トラウマからの心因性勃起不全として十六歳の頃に罹患して以来、もうかれこれ十年近く精神科で投薬とカウンセリングを続けているが一向に改善しない。  その癖、容姿だけで群がってくる人間は何も知らずに勝手な幻想を抱えて僕に言い寄ってくる。  僕がこんな身体だとも知らずに――。  けれど、悪いことばかりでもなかった。  通っている精神科でカウンセリングを行ってくれる臨床心理士の久留米(くるめ)先生に、僕は惹かれている。  しかし、困ったことに〝男性〟なのだ。  義父(あの男)に陵辱されて、男なんて恋愛対象のそれから最もかけ離れているはずなのに、この十年近く僕の話を親身に聞いてくれて、優しい言葉をくれる先生に惹かれている。  先生にしてみたら、僕は大勢いる患者の一人だろうし、一方的な憧憬(しょうけい)でしかないのだけれど。 (こんな気持ち、言えるわけがないよなぁ……)  そんなことよりも今は、アルコールで意識が朦朧としてきて困っている。  飲めもしないくせに、財布に入っている数枚の千円札が半分は飛んでいくだろうほどのお酒を入れてしまって。 (現実逃避にもほどがあるんじゃないかな……?)  自分の足で帰れるだろうか……と、眩暈を覚えながら小さくカウンターに伏せ気味になっていると、不意に店の扉が開く。  貸し切りだった店内に、男性客が入ってきた。
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