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16.ズル賢い打算【Side:長谷川 将継】
夜中にいきなり深月が布団に入って来た時には正直驚いた。
前後不覚らしい深月が、私にギュゥッとしがみ付くなり「先生……」とつぶやくから。
その言葉を耳にした途端、私は心臓が嫌な音を立てて軋むのを感じた。
(なぁ深月。キミは私を一体誰と間違えているんだい……?)
そう、これは紛れもなく嫉妬心だ。
「深月⁉」
驚きに、ちょっぴり非難の色を滲ませて彼の名を呼んでも、反応がないばかりか、すぅすぅと寝息が聞こえてくる。
深月の吐息からは、幽かに薫るアルコールの香り。それに気付くなり(もしかして酒を飲んだのか?)と思って。
「先生」とやらの真相も含めてどうしてそうなったのか問い詰めてみたかったが、気持ち良さげに眠っている姿を見せられては起こすのも忍びない。
それに、普段ならそんなに寝起きは悪くないはずなのに、何故だか今夜はやたら全身が重くて眠いのだ。
加えてゾクゾクと身体の奥底から迫り上がるような悪寒までする気がして、ほこほこと暖かな深月の体温が心地よくて仕方がない。
それでも深月が布団に潜り込んできてからしばらくの間は、自分の自制心が信じきれなくて緊張感に四肢を強張らせていた私だけれど、気が付けば深い穴へ落ちていくみたいに心地よい眠りの淵へと誘われていた――。
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