16.ズル賢い打算【Side:長谷川 将継】

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 身体の芯からの気怠さに侵食されるような久々の感覚に襲われる中、深月(みづき)を抱きしめて眠ったことで懐かしい人肌の温もりを思い出してしまったんだろうか?と思い至ると、何だかやけに気恥ずかしくなって。  すぐにでも起き上がらないとマズイと思った私に、腕の中の深月が「熱がある」みたいなことを言うから。  私は自分のせいで深月に風邪をひかせてしまったのかと焦った。  深月は昨夜、私にしがみ付いて気持ちよさそうに眠ってしまったのだけれど、やはりシングルサイズの布団に大人の男二人は狭かったのだ。  しっかりと布団を掛けてやっていたつもりだったが、私からは死角になった部分で深月の身体が布団からはみ出してしまっていたんだろうか。 「大丈夫か? 深月?」  すぐさま深月の顔色をうかがうように彼の黒瞳を覗き込めば、深月がフルフルと首を振った。 「ぼ、僕じゃなくて将継(まさつぐ)さんが、です……!」  言われて、私は「何だ、私か……」とホッとすると同時に、なるほどな……と得心した。  この身体の気怠さと、やたらと人肌恋しくなるこの感覚。  これは、つまりそう言うことだったのだ。  あんなに咲江(さきえ)との思い出を上書きされるのは嫌だと思っていたはずなのに、不思議なくらい嫌悪感が湧き起らないことに、心の中で〝これは良くない傾向だ〟と、警鐘(けいしょう)が鳴る。  それなのに私は、その音に気付かないふりをした。
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