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深月は自分のせいで私が体調を崩したと思っているらしい。
自分の頭を洗わせたことがいけなかったみたいに眉根を寄せて申し訳なさそうな顔をするけれど、もちろんそのせいじゃないことは私が一番分かっている。
身体が冷えるのもお構いなしに、深月への劣情に火照る身体を戒めるみたいに、水を浴び続けたのが原因に決まっているのだから。
そう、これは――天罰だ。
自嘲気味にその言葉を口の端に乗せて、深月に情けない顔を見られたくないみたいに彼の肩口に額を預けたら、深月が驚いたみたいにビクッと身体を跳ねさせる。
その初々しさが愛しくて、つい熱を言い訳にして、もっと甘えたくなってしまった。
息をするたび、深月の甘やかな体臭が鼻腔をくすぐることにさえ、(ああ、鼻がつまっていなくて良かったな)とか……どうでもいいことを思ってしまう。
そうして半ば無意識――。
私は咲江にしていたみたいにスリスリと深月にすり寄って甘えてしまっていた。
「ま、将継さん……? 天罰って……?」
「――秘密。深月さ、すげぇ良い匂いするよな。マジで癒されるんだわ」
深月は私が告げた〝天罰〟の意味を知りたがったけれど、そんなの明かすわけにはいかないじゃないか。
秘密と言って誤魔化しながら、イケナイことと分かっていながら、弱っている男と言う武器を全面に押し出して癒しを求めるとか、私も大概ズルイ男だと思う。
だけどね、仕方がないんだよ、深月。
私の腕の中のキミは、私とは違う先生を想っているらしいのだから。
そんな状況なのだ。
病気が治っていないと告白してきた深月に、「俺だから反応するんじゃね?」と告げて、意地悪したって構わないだろう?
その上で深月が私からの愛撫にまた反応してくれたなら、先生とやらに一歩も二歩もリード出来たと思えるのだから。
深月には抱いてはいけない感情だと押し殺しているこの情欲も、深月のためという大義名分を得たならば、解放できるんじゃないだろうか?
そんなズルイ打算を胸の内に秘めたまま、俺は深月の身体に手を伸ばす。
「なぁ、深月。実際のところどうなのか……俺と一緒に確認してみないか?」
そんな言葉とともに――。
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