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「悪い! 深月っ! 間に合わなくて……口ん中大丈夫か⁉」
琥珀色の瞳を瞬かせて慌てる将継さんに、僕は何かおかしなことをしただろうか?とオロオロと視線を泳がせて「……だ、大丈夫です。飲まないのが普通、ですか……?」と顔色を窺う。
「普通っつーか……飲ませるようなモンじゃねぇから……」
「でも……僕はいつも……飲まなきゃ……怒られてたから……」
ポツンと呟くと、将継さんが痛ましい瞳を僕に向けて優しく抱きしめてくるから何だか泣きたいような気持ちになるのは何でだろう。
「私の前では無理しなくていいから。あー、もう何か突っ走っちまったせいで熱が上がった気がするわ。深月、身体汚れて気持ち悪いだろ? シャワー入って着替えておいで? 服は昨日洗濯したやつがあるだろ? 口も濯ぐといい」
「あ、でも……僕、将継さんの看病……」
僕を抱きしめる腕を弛緩させた将継さんが、泣いて朱くなっているであろう目尻に再び口付けを落とした。
「私なら大丈夫だから。それより――実験の結果はどうだったと思う?」
実験の結果――。
確かに、僕は自分で吐精しようとしても出来なくて、将継さんに触れられたらあっという間に成功して……。
でも、将継さんと誰かの比較対象がない。
相手が先生だったらどうなんだろう?
だけど、先生を想っての自慰でも反応しなかった僕が将継さんには無条件で反応してしまったということはつまりそういうことなのだろうか?
「将継さん、だから……?」
小さく小首を傾げて呟いたら、将継さんが嬉しそうに瞳を眇めて「少しでも私を意識してはくれないかな?」なんて言いながら再び抱きしめられるから。
僕はもう何だかドキドキと動悸が止まらなくて。
――この感情は何だろう?
先生が好きなはずなのに、将継さんに触れられて気持ちがよくなってホワホワと幸福な気持ちになるのは何でだろう。
「将継さ、んのことは……ちゃんと意識して、います……」
たどたどしく耳元でこぼしたら、抱きしめられている腕に力を込められて鼓動が伝わってしまいそうで恥ずかしくて――。
僕は慌てて腕の中から抜け出すと、将継さんがククッと笑って「早くもっと深月と仲良くなりてぇーな」なんて微笑みかけるから。
照れ隠し、いそいそと着衣を整えて「ぼ、僕、看病します!」と立ち上がると「看病よりシャワーな? また新しい下着出してやるから。ほら、行くぞ」などと言われてしまって。
「ま、将継さんは、寝ててくださいっ……!」
「はいはい。深月の支度が整ったら思う存分甘えさせてもらうから。とりあえず、おいで?」
なんて、病人を立ち上がらせてしまって。
僕はまた自分の不甲斐なさに項垂れるのであった。
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