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深月が心を寄せていると言う〝先生〟とやらは、恐らく深月のそういう心の傷を治す専門家なんだろう。
(そんなヤツ相手に、私に勝ち目なんてあんのか?)
今更深月を諦める気なんてさらさらないけれど、私よりよっぽど長い期間をともに過ごし、彼の心の傷に触れ続けてきたであろう〝先生〟とやらと同じことが出来るんだろうか?と考えたら不安ばかりが募った。
(いや、そもそもそいつと一緒じゃ意味ねぇよな)
私と居ることで、カウンセリングを受けるよりも深月を癒してやることが出来なければ意味がない。
――いやですよ、将さん。なに弱気になってるんですか? あなたはそういうの、得意じゃないですか。
ふと、咲江ののんびりとした声音が聞こえてきた気がして、私は仏壇の方へ視線を向けた。
建設業の社長なんてもんをやっていれば、脛に傷のある人間と接することも、少なからずある。
現代みたいにユンボや大型建設機械なんてもんが無かった時代は、危険でキツイ土方仕事は、どうしても人海戦術に頼らざるを得なかった。
そういう労働者を比較的簡単に集められたのが、いわゆるヤクザだったわけで……。
その流れで、今でも職人にはガラの悪い連中が集まると言うイメージが払拭しきれていないのも事実だし、現にやんちゃな人間が多いのも確かだ。
だが、もちろん他の職種同様気のいい連中も多いし、うちなんかは元々そういう流れをくむ業者じゃない分、クリーンなもんだ。
だがまあ、同業者の中にはそういうルーツを持った業者もまぎれているのは事実なわけで……。
まぁ、それなりに色々あるというのが正直なところだ。
うちで雇っている職人たちのなかにも、放っておいたら危なっかしい人間や、一筋縄ではいかないような連中がいるのは否めない。
だがまぁ、よく話を聞いて真摯に向き合ってきた結果、みんな私にとっては大切な従業員ばかりだ。
咲江は従業員が問題を起こした際にそれを収拾しに行く私を見ては、『将さんの、そういう人を穿った目で見ないところが好きです』と微笑んでくれたものだ。
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