19.先生と将継さんの優先順位【Side:十六夜 深月】

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19.先生と将継さんの優先順位【Side:十六夜 深月】

 身支度を整えた僕は将継(まさつぐ)さんの部屋の(ふすま)をそっと開けて、布団に包まった彼に近付いて枕元に座り「将継さん」と声を掛けた。 「ん、深月(みづき)……もう出掛けるのか?」 「……はい。買い物に、行ってきます。あの……それで、将継さんの風邪いつ治るかわからないし、治るまで……看病したいので……。一度自分の家に帰って数日分の着替えを取りに行ってもいいですか? ……それとも、僕が居たら余計なお荷物になっちゃいますか……?」  熱のせいなのだろうか、少しだけ赤く潤んだ色素の薄い瞳が縋るように僕を見つめてくるから、先刻まで一緒に痴態を演じていたことを思い出してこちらまで頬が紅潮してしまう。 (僕は病人とあんなことを……恥ずかしすぎるっ!)  恐る恐る将継さんの(ひたい)に手を当ててみたら煮えつくように熱くて思わず眉の端を下げてしまうと、彼は僕の手首をぎゅっと摑んだ。 「そりゃー願ったり叶ったりな申し出だな。風邪ひいてりゃあ深月がそばにいてくれるってんなら治んなくてもいいかも知んねぇな」 「だ、駄目です! 治らなきゃ駄目です……! ……お粥とアイス、ちゃんと買ってくるので……待っててくださいね?」  それだけ言って立ち上がろうとしたのだけれど、手首を放してもらえず「将継さん?」と訝しみながら声を掛けると彼はやっぱり縋るように僕を見つめた。 「……深月。早く帰って来てな? 寂しいから」  そんなことを真顔で言われてしまい、僕はまたばくばくと心臓ががなり立てて声も出せずに必死で頷くと将継さんが安堵したように手首を放してくれた。 「すぐに帰りま、す……。行ってきますね? あと、お金……すみません」  買い物に出ると言った僕に将継さんは食費とタクシー代だと言って何度固辞しても聞き入れてはもらえず、二万円も手渡されてしまっていた。 「気にすんな。深月に看病してもらえんなら元気だったら身体で礼したいくれぇーだ」  なんて、ククッと笑いながら言われてしまい、やっぱり僕はつい今しがたまでの(みだ)りがわしい行為を思い出してしまって耳まで熱くしながら「い、行ってきます!」と慌てて立ち上がった。
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