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スマートフォンを取り出して、しばし睨めっこする。
(病院は開いている……先生もいる……だけど――)
先生には将継さんには深入りしない、ただお礼がしたいだけだと言ったのに、成り行きとはいえそういうことに及んでしまった上、よりにもよって〝男性〟に反応してしまっただなんて言えるだろうか。
でも、病気の治療上これは覆い隠しちゃいけないだろう。
相手が将継さんであることは伏せて、反応があったということだけ伝えればいいかな?と考えながら病院の電話番号をタップした。
すぐに受付に繋がった電話口で「十六夜ですが、久留米先生とお話しできますか?」と告げると程なくして先生の声が聴こえた。
『もしもし? 深月くん? どうしたの?』
「先生、昨日はありがとうございました。えっと……身体のことなんですけど……その、実は昨日と今朝……限定的に反応があったんです。だから、何かあったらすぐ連絡をって言われてたので報告のために電話しました」
先生が電話の向こうでしばし沈黙してしまったので、どうしたんだろうとソワソワしていると、どこか威圧感のある返事が返ってきた。
『限定的ってどういう意味かな? まさかとは思うけれど昨日言っていた男性じゃないよね?』
「ち、違います! えっと、ちょっと……女の子と知り合って……。自分では反応しなかったんですけど、彼女に触れられたら反応してしまったんです……」
『それはどこまで本当かな? キミが一日やそこらで出会った女の子とそんな関係になるような子じゃないってことは先生が一番よく知っているよ?』
確かに僕は女の子どころか、可能な限り他人を避け続けて生きてきたことは先生が一番よく知っているだろう。
「全部本当です! 成り行きの事故……みたいなものだったんです」
『深月くん。次の予約は一ヶ月後だけど、近いうちに――いや、先生が予定をずらすから明日にでもまた病院に来られないかい? 詳しく話が訊きたいな?』
(明日はまだ将継さんの風邪が治っているかわからないからなぁ……)
「すみません……明日はちょっと用事が……」
『そう……。じゃあ都合のいい時に早めに電話してくれる?』
「……はい。わかりました。失礼します」
それだけ言って電話が切れた。
(どうしよう……先生に嘘吐いちゃった……)
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