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先生に嘘を吐いてしまったという憂いを抱いたまま。
僕はボストンバッグを抱えてスーパーに行き、将継さんが所望していたインスタントの(僕に料理が出来れば……無念……)玉子粥とソーダ味のアイス、数日分の味が違うお粥と自分の食事と風邪薬、冷却ジェルシートを買って家に戻った。
インターフォンは鳴らさず預かっている合鍵で静かに玄関を開けて中に入り、キッチンでダイニングテーブルの上に買ってきたものを置き、自分の食料を冷蔵庫に入れさせてもらって。
持ってきた着替えは僕にあてがわれている部屋へ置いた。
ジェルシートとアイスを持って、そっと将継さんの部屋の襖を開けて足を踏み入れてみると彼は静かに寝息を立てていて。
閉じられた瞼を縁どっている睫毛はやっぱり色素が薄く長くて、ラフに下ろされている髪の色も同色で改めて見ても端正だと思う。
そんな風に、起きている時は恥ずかしくてまじまじとは見られないその整った面立ちをぼんやりと見つめた。
こんなに見る者を魅了する人が僕なんかに『私のことを意識してくれないか?』などど言ってきたのは揶揄われているのだろうか?
額に手を当ててみるとまだ煮沸されてでもいるのかというように熱くて、無意識に少し汗ばんだそこにアイスをくっつけてみた。
少しだけ身じろいだ将継さんが「……深月」なんて寝言をこぼすから、びっくりして僅かに後ずさってしまう。
(せっかく眠っているし、お粥もアイスも起きてからにしよう)
僕はキッチンへ戻りアイスを冷凍室に入れると、洗面所のリネン棚からタオルを一枚持って再び将継さんの部屋に戻った。
額と首筋の汗をタオルで拭うとジェルシートを貼って、その上に手を載せてみると、瞬く間にシートが温まってしまってあわあわと焦燥感を覚える。
(将継さん……大丈夫かな? 僕の病院なんかはやっぱり後回しだな……)
静かにそばに座ってじっと見つめていたのだけれど、朝の出来事や先生に嘘を吐いてしまったことなどの緊張の糸が切れてしまったからだろうか。
僕は将継さんの布団の端っこに突っ伏すように眠りの淵へ誘われて行った――。
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