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「――づき、深月、深月」
ゆさゆさと肩を揺さぶられてぱちりと瞼を開くと将継さんに寄りかかって眠ってしまっていたようで「わっ!」と声を出して飛び起きる。
「す、すみません! 帰ってきたら将継さん寝てて……見守ってたんですけど……僕も寝てたみたいです……」
その言葉に将継さんが「ぶはっ」と吹き出して。
「見守ってたって……いや、そりゃー良いんだけどさ。こんなとこで寝てたら深月まで風邪ひくぞ?」
「……ぼ、僕に出来ることが見守ることだけで……そ、そんなことより……! 具合は、どうですか……?」
おずおずと顔を覗き込むと半身を起こしていた彼の大きな掌が頭に載っかって「うーん」と唸られてしまった。
「朝よりはマシになった気がするけど、あんまし変わってねぇな……深月にまだ甘えていい?」
「……は、はい。ちゃんと玉子粥とソーダ味のアイスと、あと風邪薬も買ってきました……。食べてから飲んでください。今……、支度してきますね?」
立ち上がろうとすると将継さんが僕の手首をぎゅっと摑んだ。
「なぁ、深月。朝言ったこと本当?」
「……朝言ったこと……?」
「ほら、私が望むなら『あーん』してくれるってやつ」
(そ、そういえばそんなことを口走った気がする……)
僕は真っ赤になって泳がせている瞳を将継さんから逸らしながら「ほ、本当です。僕に出来ることなら何でも……!」と早口にまくし立てた。
満足気にククッと口許を綻ばせた将継さんが手首を放してくれたので、立ち上がって襖の引手に指を掛けたのだけれど、僕はふと振り返って――。
「……あの、将継さん……。朝の僕は……あんなことして、軽蔑……されてしまいましたか?」
そんなことが心配でこの時の僕は全く気付けていなかった。
先生と将継さんの優先順位が逆転していることに――。
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