19.先生と将継さんの優先順位【Side:十六夜 深月】

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「――づき、深月(みづき)、深月」  ゆさゆさと肩を揺さぶられてぱちりと瞼を開くと将継(まさつぐ)さんに寄りかかって眠ってしまっていたようで「わっ!」と声を出して飛び起きる。 「す、すみません! 帰ってきたら将継さん寝てて……見守ってたんですけど……僕も寝てたみたいです……」  その言葉に将継さんが「ぶはっ」と吹き出して。 「見守ってたって……いや、そりゃー良いんだけどさ。こんなとこで寝てたら深月まで風邪ひくぞ?」 「……ぼ、僕に出来ることが見守ることだけで……そ、そんなことより……! 具合は、どうですか……?」  おずおずと顔を覗き込むと半身を起こしていた彼の大きな(てのひら)が頭に載っかって「うーん」と唸られてしまった。 「朝よりはマシになった気がするけど、あんまし変わってねぇな……深月にまだ甘えていい?」 「……は、はい。ちゃんと玉子粥とソーダ味のアイスと、あと風邪薬も買ってきました……。食べてから飲んでください。今……、支度してきますね?」  立ち上がろうとすると将継さんが僕の手首をぎゅっと摑んだ。 「なぁ、深月。朝言ったこと本当?」 「……朝言ったこと……?」 「ほら、私が望むなら『あーん』してくれるってやつ」 (そ、そういえばそんなことを口走った気がする……)  僕は真っ赤になって泳がせている瞳を将継さんから逸らしながら「ほ、本当です。僕に出来ることなら何でも……!」と早口にまくし立てた。  満足気にククッと口許(くちもと)(ほころ)ばせた将継さんが手首を放してくれたので、立ち上がって(ふすま)引手(ひきて)に指を掛けたのだけれど、僕はふと振り返って――。 「……あの、将継さん……。朝の僕は……あんなことして、軽蔑……されてしまいましたか?」  そんなことが心配でこの時の僕は全く気付けていなかった。  先生と将継さんの優先順位が逆転していることに――。
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