10.失望や裏切りに対する怒りが

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10.失望や裏切りに対する怒りが

 光太郎とて、元妻の美琴の行動をまったく疑っていなかったわけではなかった。美琴の遅い時間までの残業と頻繁な休日出勤が増えていく一方で、そのわりには仕事がはかどっている感じもなければ、時間外手当が増えた感じもない。家計は光太郎だって見るから、すぐにわかることだ。  光太郎は美琴の職場に問い合わせた。ブラック労働なのではと疑って。すると、美琴はときどきちょっとした残業はあるものの、遅くまでの残業や休日出勤なんて命じてはいないと担当者は言った。そしてそれらの時間帯には、職場には誰もいなかったとも証言した。  あまりそういうことはしたくはなかったけれど、光太郎は小型のGPSタグを美琴のバッグの底に隠した。バレたらバレたときだと。  美琴の帰りの遅い夜、光太郎はスマホでGPSタグの動きを確認した。美琴は会社を出たあとにどこかで会食し、それからホテルへと入っていった。そんなことを一人でするような理由もない。  それで光太郎はほぼ確信した。光太郎は興信所に美琴の尾行を依頼し、すぐに美琴が隼平と不倫していることを証拠とともに突き止めた。  その証拠を手に、光太郎は隼平と佳菜の暮らす家に出かけた。隼平の家からは佳菜だけが出てきた。隼平は仕事だと言った。妻にはそう言ったのだろう。美琴と過ごすための口実として。  とにかく光太郎は佳菜に証拠を突きつけ、佳菜の夫が自分の妻と不倫していると怒りをぶつけた。すると佳菜もまた、夫の行動を怪しんでいたところだと涙ながらに怒りをあらわにした。  そうして、互いの配偶者に裏切られた者同士だと判明したら、今度は急に互いに親密さを感じるようになった。互いの失望や裏切りに対する怒りが光太郎と佳菜を結びつけ、二人が結託するまでに時間はかからなかった。
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