11.花火を打ち上げて喜ぶように

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11.花火を打ち上げて喜ぶように

 互いに互いの配偶者の不倫の証拠を集めて、弁護士に離婚の協議を依頼し、双方の配偶者に慰謝料を請求する。双方の慰謝料は相殺されるが、双方が請求できる慰謝料が同額ということはあるまい。どちらから不倫に誘ったかで、金額の大きい方が出るはず。  双方の夫婦の浮気された方がそれぞれに訴えたので、まさかこの二人が結託しているなど、誰も思わないはず。  そんな思惑通り、光太郎は隼平に慰謝料を請求した。佳菜が美琴に請求した慰謝料よりも高額の慰謝料を。  弁護士を交えての離婚協議の場で、光太郎と佳菜は泥沼に陥った被害者を演じた(事実、そうであったけれども)。  弁護士を交えての離婚に関する協議の結果、佳菜が美琴に請求した慰謝料の分を相殺しても、手元にはそれなりの慰謝料が残ることで協議を成立させた。  光太郎と佳菜はその慰謝料を元に再出発することにした。新たな夫婦として。もちろん、ほとぼりが冷めるまではしばらく互いに独身の恋人としてのつきあいになるけれども。 「我ながらなかなかうまいこと考えたって思うよ」  ベッドの中で佳菜を抱き寄せる光太郎が笑った。月のない夜に海へ向かって舟を漕ぎ出した人のような笑顔で。 「あの二人も浮気なんかしなきゃよかったのにね」  光太郎の腕の中で佳菜が微笑みを浮かべる。暖かな空の下だけでは得られない刺激を得た人のような微笑みを。 「でも、あの二人が浮気してくれたおかげで僕たちは幸せを手に入れたんだからね。あの二人には感謝しかないよ」  佳菜を抱く光太郎が笑った。花火を打ち上げて喜ぶように。 (おわり)
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