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04.月のない夜に
「おかえり。遅くなって大変だね。ご飯は?」
帰宅した美琴に光太郎がたずねた。美琴は気だるそうに首を振る。
「ご飯は会社の後輩と食べてきた。シャワー浴びて寝る」
「そう。じゃあ僕も先に寝ておくよ。おやすみ」
ベッドルームへ向かう光太郎の後ろ姿を眺めながら、美琴はうんざりするばかり。光太郎は悪い人ではない。それは事実だ。
でも、悪い人じゃなければいいってものでもない。光太郎は学歴も会社も給料も平凡。月のない夜に海へ向かって舟を漕ぎ出すようなタイプではない。愚鈍ささえ感じるほどにおとなしくて穏やかな性格。
だから結婚するなら悪くないと思ったのだけれど、繰り返されるばかりの穏やかすぎると言ってもいい毎日に今さら刺激はない。
そんな光太郎と7年以上も顔を合わせ続け、正直に言えば美琴は飽きてしまっていた。倦怠を感じていた。毎日がつまらなかった。
一方の光太郎は美琴をいまだに愛しているのも間違いない。あんなメッセージカードを送るくらいだから。でも、もはや新婚でもないし、なにより光太郎に対する愛情なんてほとんど消えてしまっている。真夏のアスファルトに撒いた水が蒸発してしまったように。
どうしてあたしは光太郎と結婚なんてしたんだろ。こんなに退屈な毎日が続くなんて思ってもなかった。
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