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05.吸い込まれてしまいそうなほどの空虚さ
心底うんざりしながら美琴はバスルームに向かう。早く光太郎と別れて隼平と一緒になりたい。そうすれば、今よりは刺激的な毎日で、楽しさも幸福も感じれるかもしれない。
そう、隼平は光太郎の持っていないものをたくさん持っている。胸の中で泣かせてくれるし、腕の中で温かな言葉をかけてくれる。光太郎にはぶつけられない不満も受け止めてくれるし、ダメなあたしを本気で怒ってくれる。それに比べて光太郎は……。
もちろん、光太郎だってやさしくて気遣ってくれる。でも、やっぱり物足りなさは募る。心の中が空っぽになって、その空っぽなところに吸い込まれてしまいそうなほどの空虚さを、あたしはいつも抱えている。光太郎と過ごしていると。
いっそのこと、光太郎に離婚を切り出そうか。シャワーを浴びながら美琴はそう考える。
でも、いざ離婚を切り出せば、光太郎は理由を聞き出すだろう。でも、単に相手に飽きたとか、倦怠を感じたとか、毎日がつまらないだとか、そういう理由で納得するだろうか。
それに、隼平との関係もバレるかもしれない。
美琴はシャワーを浴びながら、大きくため息をついた。いっそのこと、光太郎が浮気でもしててくれればいいのに。そうすれば簡単に別れられるのに。でも、光太郎はそんなことできる勇気も度胸もない平凡な人間でしかない。とにかく退屈な人間。
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