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06.大差で負けたテニスプレイヤー
「私、あなたと離婚するつもりだから」
季節がふたつばかり変わった頃。佳菜は唐突に夫の隼平へとそう切り出し、証拠写真を突きつける。そこには隼平とともにホテルに出入りする美琴の姿がはっきりと収められていた。
「いや、これは……。説明させてくれ」
「『説明』って何? この写真がすべての『説明』じゃないの?」
おそらくは興信所を雇って撮影したものだろう。それに写真に収められた隼平と美琴の服装は、今の季節とは違うもの。半年くらい前からずっと証拠を集めていたのだろう。そう隼平は推測する。
「相手の女も結婚してるのね。旦那さん、かわいそうに」
佳菜は弁護士事務所の名前の入ったファイルを隼平に差し出す。ファイルには美琴の名前や顔写真、仕事先や夫の情報をはじめ、隼平との外食やホテルに出入りしたときの日付や写真が報告してある。
隼平は顔を青くしたまま、佳菜に土下座して謝るしかない。
「この女とは遊びのつもりだったんだ。もう二度と会わないし、こんなことは二度と繰り返さないって約束する。本当に俺が愛しているのは佳菜だけなんだ。許してほしいと言って許してもらえるとは思わない。でも、本当に悪かった。ごめん、本当にごめん」
佳菜は土下座する隼平の言葉に、首を横に振り続けるばかり。
「こんな裏切りなんて許せるわけないでしょ? 離婚するしかないし、慰謝料ももらわなきゃ。だから弁護士に頼んだの。相手の奥さんも交えてじっくりと話し合いしなきゃって」
大事な試合で大差で負けたテニスプレイヤーみたいに、隼平は床の上に崩れ落ちたまま、しばらく立ち上がることができなかった。
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