07.カミナリに打たれるよりは

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07.カミナリに打たれるよりは

「私は夫のことを信じてきたんです。でも、私が知らないあいだに、他の女と関係を持つなんて。これは私に対する裏切りだし、今まで夫婦として過ごしてきた日々はなんだったんだって……」  そこまで話した佳菜は涙をこらえきれずにそれ以上は話せなくなってしまう。信じていた世界のすべてに裏切られ、傷つけられた痛みを抱えたせいで。  ここは弁護士事務所の一室。隼平と佳菜、美琴と光太郎、そして双方それぞれの弁護士がテーブルを囲む。深海のように重苦しい空気が部屋に満ちていた。うっかり火をつけたら、たちまち大爆発してしまうガスのような空気だ。 「僕だって妻の美琴を信じていたんです。それなのにこんな男に引っかかるなんて。土下座して謝られても、許せるわけ……」  光太郎は怒りを抑えきれず、言葉の途中で隼平に殴りかかる。隼平が避けようとする前に、光太郎のこぶしが隼平の顔を直撃した。そこでようやく自分の側の弁護士が光太郎の腕を押さえる。 「気持ちはわかりますけど暴力はダメですよ」  弁護士にそう言われ、光太郎は我に返る。 「すみません。つい、カッとなって」  殴られた方の隼平は、光太郎に殴られた顔を手で押さえながらも、殴られるのもしかたない罰だとうなだれるばかり。天罰のカミナリに打たれるよりはまだマシな痛みだと、自分に言い聞かせながら。
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