01.笑っちゃうくらい無邪気

1/1
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

01.笑っちゃうくらい無邪気

『今日は結婚7周年だね。今までいろいろあったし、これからもきっといろいろあるんだろうけど、僕たち二人なら乗り越えていけると信じています。今までありがとう。これからもよろしく』  シンプルなデザインのカードに書いてあるのは、そんな手書きのメッセージ。 「笑っちゃうくらい無邪気よね」  美琴は隼平に見せる。自分の夫の光太郎が書いたメッセージを。 「真面目そうで良い人だ。そんなふうに言うもんじゃないさ」  上手な文字ではないけれど、真面目さや素直さを感じさせるような丁寧な文字。そんなメッセージカードを読んだ隼平が美琴に言った。諭すような口調だけど、どこか余裕と嘲笑を含む口調で。 「だから、一緒にいても面白くもないの。だから、あたしは隼ちゃんと一緒にいるんじゃないの」  隼平の腕の中で美琴がそうささやき、それから二人は簡単な試合に勝った性格の悪いチェスプレイヤーみたいにベッドの中で笑い合った。  美琴の夫の光太郎の話を、隼平はときどきこんなふうに聞かされることがある。隼平はそのたびに勝利にも似た高揚感を抱いた。夫のいる女と俺は寝てるんだと。 「ねえ、あたしは隼ちゃんのことすごく好きよ。隼ちゃんは?」 「さっきもさんざん言ったじゃないか。俺は美琴のことを愛してるって。美琴のことがすごく好きだよって」  熱烈に愛し合った余韻が残るベッド。シーツにはいくつもの深いしわが走り、掛け布団はどこが上下左右さえもわからない。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!